大阪高等裁判所 昭和30年(う)1874号 判決
所論は要するに、原判決は、証拠として、原審相被告人川口正の窃盗、公務執行妨害、傷害の各犯罪事実と、被告人の贓物故買の犯罪事実とに対する証拠とを一括して羅列しているのであるが、被告人が贓物たることを知つていたという知情の点に関する証拠としては、前記川口正の検察官に対する昭和三十年四月二十一日附供述調書中、被告人が盗品であるくらいのことは感付いていたものと思う旨の想像的推測的供述があるだけでほかには、被告人が贓物たることを知つていたことを積極的に認定するに足りる証拠は一つもない、従つて被告人に対し、贓物たることの知情の点を認定するには、間接証拠すなわち情況証拠によらなければならないのであるが、そのためには個々の具体的な情況を挙示し、これによつて事実認定に至る推理的過程を明らかにしなければならないにかゝわらず、原判決の証拠説明では、どの証拠のどの部分によつて被告人の知情の点を認定したのか不明である。従つて、原判決は理由不備の違法があるのみならず、知情の点について事実を誤認している、というのである。
記録を調査すると、原判決が被告人に対する贓物故買と、原審相被告人川口正に対する窃盗、公務執行妨害、傷害の各被告事件とを併合し、罪となるべき事実として、右川口正に対する昭和三十年三月二日附並びに同年四月二十三日附起訴状及び被告人に対する同年四月二十三日附起訴状を各引用し、その証拠として、一ないし十項目に分けてはあるが、川口正の窃盗、公務執行妨害、傷害の各犯罪事実と、被告人の贓物故買の犯罪事実とに対する証拠とを無差別に羅列していることは所論のとおりである。しかし、被告人の贓物故買の点に関する証拠としては、原判決の挙示する証拠のうち、被告人の原審公判廷における供述、被告人に対する起訴状記載の窃盗被害者作成の各被害届書、証人川口正の原審公判廷における供述、川口正の検察官に対する第二、三回各供述調書、被告人の検察官に対する供述調書、被告人の司法巡査に対する第二、三回供述調書並びに添附の犯罪事実一覧表であることは、記録に徴し明白であるからどの証拠のどの部分によつて被告人の知情の点を認定したかは前記の証拠の内容を検討して知るべきであつて、要は、右の証拠を合理的に価値判断して、被告人の知情の点を認定し得るか否かを判定するべきである。
被告人は、終始、川口正が京都のパチンコ屋の景品を買い集めて売りに来るのだという同人の説明を信用していたのであつて贓物であることは知らなかつたと陳述しているのであるが、前記の証拠を綜合すると、原審相被告人川口正は、たばこ小売店において窃取したたばこを被告人に対し、九回にわたり、いつも午前八時頃被告人方において、一回に三百個ないし二千個づつ売却したのであつて、その前は、被告人の妻に対し三十個ないし五十個くらいづつ売つていたが、原判示(一)記載の昭和二十八年十一月二十六日頃の午前八時頃被告人方へ行くと、被告人が二階へ上つてくれと言うので、同家二階で被告人に対しピース七百個を一個三十五円の割合により金二万四千五百円で売却したこと、そのたばこは、日本専売公社において五十個づつ包装して小売店に送付されて来たまゝの姿であり、その後売却した分も、ピース、光、新生、バツト等取りまぜ、大部分は専売公社包装のまゝで大体一個五円引の値段により売り渡したものであつて、パチンコの景品を寄せ集めたものとは認め難い状況であつたことが、うかがわれ、従つて、川口正は、検察官に対し、被告人に盗んで来たものであるとは言わなくても同人において盗品であることは感付いていたものと思うと陳述し、被告人もまた司法巡査に対して、最初買い受けたとき、余りにも沢山の量であり、しかも封を切つてなかつたので、盗んで来たものではないかと疑い、またにせ物かも知れないと思い、川口の持つて来たピース五十包を二、三個開いて中味を検めてみたが、にせ物ではなかつたので、こんなに沢山のたばこをどうして手に入れたか、盗んで来たのと違うかと尋ねてみた旨供述しているのである。然らば、被告人において知情の点について直接自白していなくても、以上の証拠により被告人が本件のたばこが贓物であることを認識していたものと認定することは別段に論理法則や経験法則に反するものではない。所論は結局証拠の取捨判断に関する原審の適法な措置を非難するに帰する。記録を精査しても原判決には理由不備事実誤認等の違法はないから、論旨は理由がない。
(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)